正社員やアルバイトとして運送会社に雇用される方とは異なり、個人事業主として稼働する軽貨物ドライバーは雇用保険や労災保険に加入することができません。

しかし、軽貨物ドライバーとして稼働していると、交通事故や荷物の落下といった労働災害の可能性が常に付きまといます。万が一のリスクに備えるため、個人事業主の軽貨物ドライバーは、一人親方労災保険と呼ばれる特別な制度を利用することが可能です。

今回は、個人事業主の軽貨物ドライバーに知っておいてほしい一人親方労災保険について詳しく解説していきます。

個人事業主の軽貨物ドライバーが加入できない保険

運送会社と雇用契約を結ぶ正社員やアルバイトの軽貨物ドライバーと、個人事業主として稼働するドライバーとでは、加入できる社会保険や費用負担が以下のように異なります。

  正社員・アルバイト 個人事業主
健康保険 半額負担(健康保険組合・全国健康保険協会) 全額負担(国民健康保険)
介護保険 半額負担 全額負担
年金 半額負担(厚生年金) 全額負担(国民年金保険)
労災保険 負担なし
雇用保険 一部負担

正社員やアルバイトのドライバーは社会保険の一部を運送会社に負担してもらえますが、個人事業主の場合は全て自己負担となります。

個人事業主の軽貨物ドライバーが特に押さえておきたいのは、健康保険組合や全国健康保険協会ではなく国民健康保険に加入する点、そして雇用保険や労災保険に加入できない点です。人員を増やす場合、雇用保険や労災保険は雇用した従業員にのみ適用されます。

軽貨物ドライバーと労災のリスク

軽貨物ドライバーは集中力が低下して交通事故に巻き込まれたり、荷物の積み下ろしを繰り返して身体を痛めたりするリスクと隣り合わせだと言えます。

個人事業主として稼働する軽貨物ドライバーは、有給休暇を取得したり、一般的な労災保険に加入して補償を受けたりすることができません。業務中の大きな怪我などによって働けなくなると、その間の収入はゼロになってしまいます

軽貨物ドライバーを本業としている方は特に、先述したような事態が発生すると、生活していくのが難しくなってしまう可能性も考えられるでしょう。

一人親方労災保険とは

交通事故や怪我のリスクが高いにも関わらず、個人事業主の軽貨物ドライバーは正社員やアルバイト向けの労災保険に加入することができません。

ただし、一部の業種を対象として、個人事業主も一人親方労災保険と呼ばれる特別な保険に加入することが可能です。具体的には、個人事業主と雇用される労働者の業務内容や労働災害のリスクが限りなく近い、以下のような業種が該当します。

  • 貨物運送業
  • 建設業
  • 林業
  • 漁業
  • 廃棄物処理業

個人で活動する軽貨物ドライバーにとって、一人親方労災保険への加入は義務ではありません。ただ、業務中の事故や怪我によって長期間働けなくなった場合の金銭的な影響を考えると、万が一の事態に備えて加入しておくことが望ましいです。

一人親方労災保険の補償内容

個人事業主の軽貨物ドライバーが一人親方労災保険に加入する際には、労働局の承認を受けた全国各地に存在する特別加入団体に入る必要があります。特別加入団体を事業主、個人のドライバーを労働者とみなして労災保険が適用されるというわけです。

運送業に従事する方が一人親方労災保険に加入すると、以下のような補償を受けられます。

療養(補償)給付 業務上のケガや病気の治療費が全額支給される
休業(補償)給付 働けない期間中の賃金が一部補償される
・本体給付:給付基礎日額の6割
・特別支給金:給付基礎日額の2割
傷病(補償)年金 治療開始から1年6ヶ月以上経過しても怪我や病気が治っていない、あるいは傷病等級表の1~3級に該当する場合に等級に応じて支給される
障害(補償)給付 身体に一定の障害が残った場合に等級に応じて支給される
遺族(補償)給付 労災により死亡した方の遺族に対し人数に応じて支給される
介護(補償)給付 傷病年金あるいは障害年金の受給者のうち、障害等級・傷病等級が高いといった条件を満たした場合に支給される
葬祭料・葬祭給付 労災により加入者が死亡した際に、葬儀を行う遺族に対して支給される

一人親方労災保険は国が運営する制度であり、加入した団体に関わらず保険料や補償内容は一律となっています。なお、休業給付の基準となる給付基礎日額とは、労災が発生した日以前の1年間に受け取った報酬の総額を365で割った金額のことです。

【軽貨物】一人親方労災保険の補償が適用される事例

一人親方労災保険の補償の適用可否を判断する際に重要な基準となるのが、「業務中および移動中に発生したかどうか」です。負傷の程度にもよりますが、軽貨物ドライバーとして稼働する方に起こり得る具体的な事例として、以下が挙げられます。

  • 配送センターや配達先に向かう途中・帰宅中に交通事故に遭った
  • 荷物を積み込む際にフォークリフトなどの運搬車両にぶつかった
  • 荷物を運ぶ際に階段や段差につまづいて転倒した
  • 配送車に積み込んだ荷物が崩れて下敷きになった
  • 長時間の運転で姿勢が悪化して腰痛になった
  • 重い荷物を持ち上げてぎっくり腰になった

突発的な事故はもちろんですが、腰痛のような業務に従事する中で発生する慢性的な怪我も、「業務に起因する」ことを証明できれば補償の対象となる可能性が高いです。

確実に補償を受けられるよう、継続的に仕事をしていたことを示せる納品書や日報などを保管しておくと良いでしょう。

軽貨物ドライバーが一人親方労災保険に入る流れ

個人事業主の軽貨物ドライバーは、以下のような流れで一人親方労災保険に加入します。

  1. 特別加入団体が運営するWebサイトから申し込む
  2. 必要書類(運送事業の許可証・収入証明書など)を用意して手続きを完了させる
  3. 保険料を納付する
  4. 加入証明書を受け取る

手続きに必要な書類は特別加入団体や手続きの方法によって異なるため、加入を検討している団体に事前に問い合わせてみてください。

【軽貨物ドライバー】一人親方労災保険を選ぶポイント

軽貨物ドライバーが一人親方労災保険に加入する上で重要となるのが、特別加入団体の選び方です。以下のようなポイントを押さえた団体に入ることをおすすめします。

  • 入会金・年会費が安い
  • 更新時に通知が届く
  • オンラインでの手続きや翌日加入が可能である

入会金・年会費が安い

先述した通り、どの特別加入団体を選んでも保険料や補償内容は変わりません。しかし、入会金や年会費は団体によって異なります。年会費や入会金が安い団体を選択することで、費用負担を抑えられます

更新時に通知が届く

  • 大きな裁量を持って働き方を選択できる
  • 成果報酬制が採用されることが一般的である

上記のような理由から、個人事業主の収入や運送会社との契約内容は流動的に変化する傾向にあります。そのため、定期的に保険料が適切であるかを確認し、必要に応じて調整を行うことが重要。更新のタイミングで通知が届く団体を選んでおくと安心です。

オンラインでの手続きや翌日加入が可能である

労災保険に加入してすぐに稼働を始めたいといった都合で、一人親方労災保険への加入手続きを手早く済ませなければならないケースも考えられるでしょう。

特別加入団体の中には、一人親方労災保険への加入手続きをオンライン上で完結させられる、最短で翌日に加入できるといったところもあります。

なお、一人親方労災保険に入るためには、特別加入団体に加えて都道府県の労働局に承認してもらわなければならず、即日で手続きを完了させることは難しいです。

万が一の事態に備えて労災保険に入っておこう

軽貨物ドライバーは、交通事故や怪我のリスクと隣り合わせです。長期間働けなくなるような事態になれば、本来得られるはずだった報酬がゼロになってしまうことを考えると、業務中に起こり得る万が一の病気や怪我に備えておいて損はありません。

一人親方労災保険は国が管轄しているにも関わらず、その存在を認知していないドライバーが多いのも現状です。本記事をきっかけに、一人親方労災保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者

軽貨物・業務委託ドライバーのための軽カモツネット

軽カモツネット編集部

軽カモツネットは株式会社ギオンデリバリーサービスが運営する、軽貨物ドライバー向けの情報発信メディアです。運営元のギオンデリバリーサービスは2013年の設立以来、神奈川県相模原市を中心に業務委託ドライバーの開業支援や宅配サービスの運営など多岐にわたるサポートを行ってきました。拠点数は全国40カ所以上、約2,000名のドライバーが、日々安全で効率的な配送をご提供しています。軽カモツネットでは、軽貨物ドライバーの皆様のニーズに応え信頼される情報を発信してまいります。